「華麗なるギャツビー」(米)…「空虚な時代」象徴する笑顔
何と作り物めいた、しかし見事な笑顔だろうと思った。
主人公ギャツビー(レオナルド・ディカプリオ=写真右)が初めて登場するシーンで、狂言回し役のニック(トビー・マグワイア)に見せる、満面の笑 み。背景では、夜空に花火が盛大に打ち上げられている。いかにもウソくさいのに、魅了されてしまった。後になって、それは作品全体を象徴する笑顔だったと 分かる。
1920年代の米ニューヨーク。「狂乱の20年代」と呼ばれ、空前の好景気に沸いた時代だ。ニックの隣に住む謎の男ギャツビーは富豪で、毎夜、宮 殿のような邸宅で豪華なパーティーを開いている。ある日、ギャツビーはニックの親戚で人妻のデイジー(キャリー・マリガン=同左)に会いたいと、ニックに 相談する。ギャツビーとデイジーには秘めた過去があり、再会してどんどん親密になっていく。
原作はF・スコット・フィッツジェラルド。映画化作品では、ロバート・レッドフォード主演の74年の同名作が知られている。今回は、悲恋ムードが 濃い74年版とは印象が違う。ギャツビーのデイジーへの愛は思い込みが強すぎて、今の時代ならストーカーだ。デイジーと再会するシーンはコミカルでもあ る。それが単なるお笑いにならないのは、「ムーラン・ルージュ」のバズ・ラーマン監督のミュージカルのような演出のおかげだろう。当時のジャズや現代の ヒップホップを織り交ぜた音楽が作品全体を通して響く。音楽のない場面も、人工的な美に満ちている。
「狂乱」を凝縮したパーティー・シーンが圧巻だ。邸宅に集まる美男美女。音楽とダンス、シャンパン。プラダ、ミュウミュウ、ブルックスブラザーズ と、一流のファッションメーカーが手がけた衣装。ティファニーの宝飾品。あらゆるものが豪華で魅力的だが、同時にスカスカで安っぽい。29年の大恐慌で崩 壊してしまう夢の時代のはかなさを、実にうまく表現している。
バブルに沸く時代の空虚さと、空回りするギャツビーの愛。そしてあの笑顔。全てが重なり、ギャツビーが時代のシンボルのように思えてくる。
あの笑顔は、中身のない男の必死の装いだったと気づく。それは、夢のような時代と同様、切実で、甘く、美しい。込められた意味は違うが、見事さで は、「戦場のメリークリスマス」のラストでビートたけし演じる軍人が見せた笑顔と並ぶ。心に残り、何度も思い出すだろう。2時間22分。有楽町・丸の内ピ カデリーなど。