コロンビア大学をはじめとする米韓の研究チームが、次世代素材グラフェンを発光させる実証実験に成功しました。グラフェンコーティングしたLEDなどはあるものの、グラフェンそのものを発光させたのは世界初。フォトニック(光子)回路開発への応用が期待され、将来的にさまざまな電子機器をを大きく変貌させる可能性を持っています。
グラフェンとは炭素繊維が平面状に結合した物質。単層構造で、その厚みは炭素原子ひとつぶんという薄さです。非常に高い導電性や物理的強度など、いくつかの特徴を備えています。
[Image credit: Myung-Ho Bae/KRISS]
素材としてのグラフェンは応用範囲も幅広く、半導体用途からセンサー、電池、バイオ、高強度繊維などあらゆる分野で期待されています。2004年に黒鉛の塊からグラフェンを取り出すことに成功し、その性質を研究したロシア人研究者ガイムとノボセロフの2名は、2010年のノーベル物理学賞を受賞しました。
グラフェンを用いた電球もすでに実用レベルに来ています。英国マンチェスター大学の関連企業グラフェンライティングが開発した電球は、LEDのフィラメントをグラフェンコーティングすることで強度を高め、高い電気伝導率と放熱性で通常のLEDより10%も発光効率を高めたとしています。この電球は英国で今年後半に発売される見込みです。
コロンビア大学の研究チームが成功したのは、コーティング剤としてではなく、グラフェンそのものが可視光を発する実験。チームはグラフェンをフィラメントとして電圧を加えたとき、発光する場合があることに気づきました。
そして、その部分を調べたところ、摂氏2500度以上という高温になっていることを発見しました。これはほとんどの金属の融点を超えているうえ、それ自体が発光するほどの温度です。
これほどの温度になると、接続された金属の電極も溶けてしまいそうな気もします。しかし、このフィラメントを接続している電極にはまったく熱が伝わっていませんでした。グラフェンは高温になると熱を伝えにくくなる性質を持っており、フィラメントは電極と電極の間のごく僅かな一部だけが高温になっているためでした。
しかも、発光しているグラフェンそのものは原子1個分の厚さしかなく透明に見えます。研究チームはこの現象を応用すれば、5年程度で透明な光源を使ったフレキシブルな透過ディスプレイが開発できるかもしれないとしています。
さらにグラフェンの発光現象は、電子回路の役割を光で情報を伝達するフォトニック回路に置き換えてしまう可能性も秘めています。研究チームはこの発光現象を高速にオン/オフさせ、いわゆる0と1からなる”ビット”を生成する研究を続けています。
コンピューターを含む電子機器、デジタル機器を大きく変貌させる可能性のある素材が、はるか昔にエジソンが考えた白熱電球と同じ炭素素材だというのは、なんとも面白いものです。
元論文は “Bright visible light emission from graphene” : Young Duck Kim,Hakseong Kim,Yujin Cho,Ji Hoon Ryoo,Cheol-Hwan Park,Pilkwang Kim,Yong Seung Kim,Sunwoo Lee,Yilei Li,Seung-Nam Park,Yong Shim Yoo,Duhee Yoon,Vincent E. Dorgan,Eric Pop,Tony F. Heinz,James Hone,Seung-Hyun Chun,Hyeonsik Cheong,Sang Wook Lee,Myung-Ho Bae & Yun Daniel Park (Nature)