いろいろな意味で寒さが本格化する時期にぴったりの心温まる科学ニュースをひとつ。米国カーネギーメロン大の心理学者らが、日常的なハグは風邪の感染しにくさや症状軽減に有意な効果があるとする論文を発表しました。
ハグが風邪に効く、とだけ聞くと「日常的にぎゅっとする相手がいるなら風邪でも看病もしてもらえるだろうし、因果じゃなくて相関が見つかっただけだろ」と 反射的に言いたくなりますが、論文を発表したチームは他の影響を排除した大掛かりな実験の結果判明したと主張しています。
今回の論文を発表したのはカーネギーメロン大学の心理学者と、バージニア大学健康科学センターの小児科、ピッツバーグ大学の耳鼻咽喉科専門家らによるチーム。論文によると、実験は健康な成人404人を人工的に風邪のウイルスに晒し感染を促したのち、全員を隔離して経過を観察する内容。ウイルスに曝露させる前には質問票で被験者の家族友人など人間関係について調査し、さらに2週間にわたって毎日その日の人間関係トラブルや争いの有無と、ハグを受けた回数を調査しています。
実験の結果、外部条件の影響を可能な限り排除して分析したところ、争いや不和が多かった人は風邪をひきやすい一方で、ハグを受けた回数が多いほど風邪をひきにくく、症状が出ても軽いことが判明したとのこと。
そりゃそうなんじゃないの、だけではなんなので続けると、家族や友人など社会的に良好な関係がストレスを軽減し、抵抗力や自然治癒力に影響を与える現象は経験的にも医学的にも知られています (ストレスバッファ効果)。しかし従来はその「効果」がどのように現れるのか、具体的にどのように計測できるのかは医学的に不明のままでした(と、元論文の著者は述べています)。
ハグは親しい相手とでなくてもストレス軽減など多様な効果があるとする「ハグは何々にも効く!」実験はよく話題になりますが、著者らの実験方法と解釈が正しいとすれば、一般的なアンケート結果では区別がつかないような、同じ程度に円満な人間関係であっても、ハグの回数が多いほうが感染症への抵抗力や治癒力は強くなることになります。
男の熱い魂は交わした腕と燃えたぎる眼光によって伝達される、とはよく言いますが(これは冗談ではありません)、愛情パワーはハグで伝達される、少なくとも観測上は回数で計れる、というのが著者らの主張です。
愛情をハグで表現するかはそもそも文化的な差がかなり大きい気がしますが、親しい相手の風邪が心配な場合、とりあえずできるときに博愛固めをキメておいて 損はなさそうです。居ない場合はとりあえずうがい手洗いを徹底して、それでもかかったら水分を摂って暖かくして一人で寝ましょう。Merry Christmas!
論文は Does Hugging Provide Stress-Buffering Social Support? A Study of Susceptibility to Upper Respiratory Infection and Illness, Sheldon Cohen (Psychological Science)
追記:トップ画像はマイクロソフトのゲーム『Kinect: ディズニーランド・アドベンチャーズ』。全身の姿勢や動きを認識するKinectセンサを使い、ディズニーランドのキャラクターとエアハグやハイタッチができます。
本文とはあまり関係ありませんが、Oculus RiftなどVR時代を控えてエアハグにも効果はあるのか、抱きまくらは効くのか etcもぜひ実証してほしいところです。