NASA が宇宙船 Orion の大気圏再突入時の映像を公開しました。映像は12月9日に実施した初の試験飛行で撮影したもの。超高温で発生するプラズマの光やパラシュートが開く様子、太平洋への着水の瞬間までを宇宙飛行士の視点で収めています。
Orion は3年前に退役したスペースシャトルに代わる NASA の有人宇宙船。コストのかさむシャトル型ではなく、アポロやソユーズと同じカプセル型の形状を採用しています。また、将来的には小惑星や火星の有人探査も視野に入れて開発が進められています。
12月5日の初の試験飛行は無人で行われ、地球を2周したのち太平洋へと帰還しました。NASA が公開した約10分間の映像は、このうち大気圏への再突入から着水までを宇宙飛行士の視点で撮影したものです。映像は Orion の進行とは逆の方向を撮影しており、機体角度の関係で地球と漆黒の宇宙の両方が見えています。
Orion が時速3万2000kmで大気圏に突入すると、はじめは黒かった宙空に次第に光が生じます。やがてそれは激しく揺らめくプラズマとなり、黄色ががった白色 から濃い赤、そして金色へと変化して行きます。なお、この光が見えている間は電波障害のため、 Orion と地上は交信途絶状態となっています。
プラズマが消え去ると、機体はゆるやかに回転しながら高度を下げていきます。数分間が過ぎたところで、黒かった空が青色へと変化します。これは空気の分子 が太陽光を散乱させる「レイリー散乱」による現象。ようやく Orion からも地上から見るのと同じ青空が見えました。そして高度7000mまで降下したところで Orion はパラシュートを開き、最終的には時速32km前後で着水しています。
この初飛行の直前、10月28日には米Orbital Sciences のロケット Antares が、そして10月31日には米Virgin Galactic の宇宙旅客船 SpaceShipTwo が相次いで事故を起こしました。特に SpaceShipTwo では犠牲者も出ており、宇宙開発の難しさを思い知らされる結果となっています。
NASAはそうした事故を受け、リスクの高さを再認識した上で Orion の初飛行を成功させました。そしてこれを「人類が太陽系に活動範囲を広げる第一歩だ」と宣言しています。Orion は今後も開発を続け、現在の計画では2017年に月への無人飛行、さらに2019年ごろには4名のクルーを乗せて月楕円軌道へ向かう予定です。
ちなみに、Orion が周回したのは地球の長楕円軌道で、最も遠いところでは高度5800km にまで到達しました。無人とはいえ、これは宇宙船としては1972 年の月面着陸船アポロ17号以来、もっとも地球から遠い距離を飛んだ記録となります。